「冲方丁のこち留」から学ぶ、留置場での生存術

「冲方丁のこち留」から学ぶ、留置場での生存術

スキマ時間にスマホで読書するのもいいものです。僕は意外と活字好きなので(笑)

このカテゴリ「Kindle本レビュー」では、僕がAmazonのKindleアプリで読んだ本の感想、思った事について記事にしています。

2015年8月、作家の冲方丁氏が奥さんへのDV容疑で渋谷署に逮捕されるという事件が起こりました。

その後、冲方丁氏は9日間にわたり勾留され、警察の取り調べを受けることになったのですが、その時の顛末が週刊プレイボーイ誌上に連載され、その連載記事を元に出版されたのが「冲方丁のこち留 -こちら渋谷警察署留置場-」です。

氏曰く「これは喜劇である」

この本の前書きで冲方丁氏は、妻へのDV容疑で逮捕・勾留された後、よく分かんないうちに不起訴処分で解放されたという自らの経験を喜劇であり、笑うしかない、と述べておられます。

氏曰く、司法の世界の現実は前近代的、不条理かつ複雑怪奇で、民衆の願いを代弁し戦ってくれる警察・検察の姿はなく、想像を絶する失望感に襲われたそうな。

そもそもの逮捕劇の流れからして、だまし討ち的な手段で氏を逮捕・勾留しているあたり、もうそこから失望感が始まっていたのかもしれないけれども。

警察はイベントの打ち上げで呑んでいた冲方丁氏の元を訪れ、「奥さんのことで聞きたいことがあるので署までご同行願います」と声をかけ、この時点では氏を逮捕しにきたことは一切言いません。

氏は妻に何かあったのかと思って同行したワケですが、事情を聞いても警察はとぼけて本当のことを教えてくれず、署についたら氏の手荷物を没収、取り調べ室に入るなり手錠をかけ、ここで初めて「逮捕状が出ていますので」と、氏の逮捕が目的だったことを明かします。

そこから9時間にわたる取り調べが行われたそうですが、氏はこの不条理かつ不毛なやり取りの中で完全にキレてしまい、徹底抗戦の決意を固めたそうな。

ここから9日間にわたる氏のリアルな獄中記が語られるワケですが、その中で色々と覚えておいた方が良い知識がそこかしこにちりばめられています。

警察は容疑者から自白を引き出そうとする

もし、あなたが身に覚えのない容疑で逮捕されてしまったら?まずは落ち着いて、この本の内容を思い出してみましょう。この本には、不当に逮捕・勾留された時、どうやって対処すればいいのか、役に立つ知識が色々と書かれています。

まず前提として、警察は容疑者=犯罪者だという認識で動いています。検挙率UP、犯罪者を捕まえたら評価されるというシステムになっているからのようですが。

なので必死に無実を主張する容疑者からなんとしても自白を引き出そうとしてきます。すでに前もってシナリオが用意されており、警察はそのシナリオに沿った自白を引き出そうとするそうです。

一応、黙秘権というのがあるので、自分にとって不利になるような発言をするのはやめるべきでしょう。それと、自分の無実を証明できそうなもの(防犯カメラとか)については、担当弁護士がつくまでは口外しない方がよいそうです。

これは、容疑者に有利で、警察に不利になるような証拠は隠されてしまう可能性が高いからだとか。冲方丁氏はマンションの防犯カメラのことを警察に言って、「もし妻側の訴えどおりなら、自分が妻を殴った映像が防犯カメラに映っているはずだ」と訴えたそうで、あとで弁護士に「それ言っちゃダメです」と怒られたそうな。

その後、弁護士さんが防犯カメラの映像を入手しに行ったけど、すでに警察に渡してしまった後で手遅れだったそうな。

それから、自分にとって重要な協力者や、弁護士の電話番号は暗記しておくべきです。「電話させてくれ」と言うと、「電話番号を教えてくれれば電話してやる」と言われるそうな。今の時代、相手の電話番号を暗記してる人もなかなか居ないと思いますが、なんとか覚えるしかないですね。

そして無実を主張するなら、何を言われても供述調書には拇印を押してはいけないそうです。冲方丁氏は押してしまったそうですが。

日本の刑事裁判では供述書が重要視され、彼らの作文である供述書には基本的に警察・検察にとって有利なことしか書かれていないんだとか。無実を訴える容疑者の主張など二の次なんでしょうね。

この本を読み進めると、現実の司法のあり方に愕然とさせられるワケですが、まあでもこれが今の日本の現実、という事で。

一方、冤罪でもなんでもいいから早く出たい、という場合は、軽微な罪状であれば略式起訴で片がつくそうなので、取り調べの段階で罪を認めてしまえば良いそうな。まあどっちをとるかは人それぞれですね。

容疑者は犯罪者と同列に扱われる

この本では、実にリアルに留置場に勾留されるまでの流れ(身体検査とか)、留置場の内部事情が記されています。

描写が結構細かく書かれていて、なかなか興味深いし面白いです。しかしまあ読むと分かりますが、本当に粗末な扱われ方をされるみたいですね。全ては容疑者の心を折るのが目的なんだろう、と氏は喝破しておられますが。

牢の中はさぞ殺伐としているのかと思いきや、意外と勾留されてる者同士でうまくコミュニケーションとったり、もめ事とか起こさないように気を使って行動したりしているそうな。会話も普通に敬語使ったりしているようで、見張りの警官の方がガラが悪いとか(笑)

この本を読んで思ったのは、留置場内では周りの人間とちゃんとコミュニケーションをとり、房内のルールを教わって、それをきちんと守るというのが大事なんだなー、ということです。

それから、氏と同じ房にいたイラン人曰く、「日本の留置場は異常」だそうな。そのイラン人は「罪人じゃないのに、この扱いはひどい」と言っていたそうで、その人は5カ国で逮捕経験があったそうですが、そのなかでも日本はひどいレベルだとか。

彼曰く、オランダが一番良かったそうで、房は個室で、ドアは開け閉め自由、散歩もできて、頼めばプレステを借りてゲームもできたそうで。日本の留置場とは別世界すぎる(笑)

あと、服役経験者のコメントも載っていて、曰く「刑務所の方がまだマシだ」とか。刑務所は更生のためのプログラムを実行する場ですが、留置場は、容疑者の心を折り、屈服させて自白させるのが目的なので。そうか、刑務所よりキツイのか…

冲方丁氏、和解金3000万円を要求される

妻へのDV容疑で逮捕された冲方丁氏ですが、事件の真相については公表されていません。それは本書についても同じで、断片的な内容しか書かれていませんが、これは奥さんとの裁判への影響を考慮している面もあるようです。

本の中で語られているのは、奥さん側の弁護士が早期釈放の条件として3000万円という額を提示してきたこと、不起訴で釈放された後、氏は奥さんと一度も会っていない事(面会を禁じられている)、自分の子供とも会えずにいる事、これらの事実だけです。

まあこの断片的な情報からなんとなく連想されるのは、DVでっちあげによる冤罪、でしょうかね。実際、そういう話はよくあるようで、警察に旦那を逮捕させておいて、子供連れて逃げちゃう奥さんとか居るらしいんで。

事の真相については、当事者同士の話だし、僕的にもさほど興味はないので事実は闇の中でも構いませんが、まあそれにしても、これって痴漢冤罪にちょっと似てるというか、捕まった方はたまったもんじゃないよなあ、とは思いました。

下手に結婚なんかすると、DVでっちあげで逮捕されちゃう可能性があるなんて。日本の未婚化が捗るワケですな。くわばらくわばら。

 

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